人材紹介業を新しい柱にしたい。そう考えて調べ始めると、最初に出てくるのは「有料職業紹介の許可」の話です。ただ、許可は入口であって、事業が回るかどうかは許可の前に決まっています。先に結論を書きます。人材紹介業の立ち上げで最初にやるのは、許可申請ではなく、①手元にある求職者との接点の棚卸し、②専任者を置けるかの確認、③許可要件と自社の数字の照合、の3つです。①と②が無いまま許可を取ると、「許可はあるが求職者が集まらない」状態で止まります。この記事では、3つを自分で確かめる手順と、許可要件のうち最初に見ておくべき項目、そして許可の後に何が待っているかを書きます。許可申請の書類や手続きの細かい流れは扱いません。
「まず許可」から入ると、何が起きるか
人材紹介業は、在庫も設備も要りません。そのため新規事業として検討する会社が多く、最初の関心は「許可は取れるのか」「資金はいくら要るのか」に向かいます。許可の要件は公開されていて、要件を満たしていれば取れます。ここは難しくありません。
難しいのは、許可を取った後です。当社が公開している人材紹介事業 立ち上げ支援のページにも書いていますが、既に始めている会社の相談は「許可は取ったが、求人・求職者が集まらない」「1件決まったが、2件目が出ない」に集中しています。許可の取得と、事業が回ることの間には、求職者を集める設計と、担当者を育てる工程があります。ここが無いまま許可だけ先に取ると、許可の有効期間の中で動けない時間が過ぎていきます。
だから順番を逆にします。許可要件の確認は3番目で、先に見るのは自社の中にあるものです。
許可より先に確かめる3つのこと
| 順番 | 確かめること | なぜ先なのか | ここで止まるなら |
|---|---|---|---|
| ① 求職者との接点の棚卸し | いまの事業で、働く個人と接している場面がどこにあるか。顧客・会員・受講生・入居者・SNSのフォロワーなど | 人材紹介がうまくいかない最大の原因は求職者が集まらないこと。接点があるかどうかで、集客の費用と時間が桁で変わる | 接点も、集客にかける予算も無い場合は、参入の前提が揃っていない |
| ② 専任者を置けるか | この事業に時間の大半を使う人を、社内に1人置けるか。既存業務の片手間で回す前提になっていないか | 求職者との面談・求人企業とのやり取り・推薦・日程調整は、日々の対応が途切れると決定に至らない | 片手間の前提なら、立ち上げの時期を見直す |
| ③ 許可要件と自社の数字の照合 | 直近の決算書で、基準資産額・現金預貯金の要件を満たしているか。責任者になる人の職業経験と講習の予定 | 要件は公開されていて、満たすか満たさないかは決算書で分かる。先に①②を見てから照合すれば、申請の準備が無駄にならない | 満たしていない場合、借入で用意するやり方は当社では勧めていない |
①②は社内の事実で決まり、費用はかかりません。③は決算書と公開資料を突き合わせるだけです。3つとも、社外の誰かに聞く前に自分で答えが出ます。
費用ゼロで、3つを自分で確かめる
手順1:働く個人と接している場面を、事業ごとに書き出す
いまの事業を1つずつ挙げ、その中で「働いている個人」または「これから働く個人」と接している場面を書き出します。賃貸不動産なら入居者や来店客、HP制作やSNS運用なら顧客企業の採用ページを作る過程で見ている求人と応募者、スクールなら受講生、店舗なら会員です。
次に、それぞれの接点で「その人の仕事や転職の話が出ることがあるか」を○×で付けます。○が付いた接点が、求職者の入口になります。○が1つも無く、集客に使える予算も無い場合は、人材紹介の立ち上げより先に、接点か予算のどちらかを作る話になります。どちらか一方があれば進められます。
手順2:専任者の名前を1人書けるか
「誰がやるか」を、役職ではなく名前で書きます。書けたら、その人の現在の業務のうち何を手放すかも書きます。手放すものが書けない場合、その人は片手間になります。
人材紹介の実務は、求職者との面談、求人企業とのやり取り、推薦、日程の調整、面接後のフォローの連なりです。どれかが数日止まると、求職者は他の紹介会社で決まります。専任者を置けるかどうかは、事業計画の数字より先に成否を分けます。当社が支援を引き受ける条件にも入れています。
手順3:直近の決算書と、許可要件を並べる
有料職業紹介事業の許可要件は、厚生労働省と各都道府県労働局が公開しています。最初に見るのは財産の要件です。三重労働局が公開している「有料職業紹介事業 許可要件(概要)」(令和7年4月版)では、次のように示されています。
| 項目 | 要件(概要) | 自社で確かめる場所 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債 ≧ 500万円 × 事業所数 | 直近の貸借対照表 |
| 現金・預金 | 自己名義の現金・預金の額 ≧ 150万円 +(60万円 ×(事業所数 - 1)) | 同上 |
| 職業紹介責任者 | 成年に達した後3年以上の職業経験があり、職業紹介責任者講習を修了している者(許可の場合は申請の受理日前5年以内の修了) | 責任者になる人の経歴と、講習の受講予定 |
| 事業所 | 事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上、または個室の設置・パーテーション等での区分によりプライバシーを保護した対応が可能であること | いまのオフィスの図面 |
| 申請時の費用 | 許可申請の手数料(収入印紙)50,000円、登録免許税 許可1件あたり90,000円 | — |
※ 出典:三重労働局「有料職業紹介事業 許可要件(概要)」「有料職業紹介事業許可申請書類について」(R07.04)。このほかに欠格事由に該当しないこと、個人情報適正管理規程、業務の運営に関する規程、手数料表などの要件があります。要件は改定されることがあるため、申請時は管轄の労働局で最新版を確認してください。許可申請の実務は社会保険労務士の領域です。当社の支援でも、申請は提携の社会保険労務士が担当しています。
よくある誤解が「資本金500万円が必要」というものです。要件は資本金ではなく、資産から負債を引いた額(基準資産額)が500万円以上、かつ自己名義の現金・預金が150万円以上(いずれも事業所1か所の場合)です。直近の決算書で既に満たしていれば、新たな資金拠出は要りません。満たしていない場合に借入で用意する方法は、当社では勧めていません。事業が回り始めるまでの時間を考えると、返済が先に来るためです。
許可の後に待っているもの
3つが揃って許可を取った後、事業が「回った」と言えるまでには段階があります。当社のページで公開している目安では、支援開始から初決定まで2〜4か月、決定から入金まで2〜4か月です(入金は入社の翌月末か翌々月末が多く、決定から入社までの1〜2か月を足した目安)。人材紹介の手数料は入社後に発生するため、決定から入金までの間が空きます。この期間の人件費と集客費を先に見込んでおかないと、決定が出ているのに資金が続かない、という順番になります。
もう一つ、最初の1件は知り合いや既存の取引先から出ることが多く、それ自体は事業が回り始めた証拠になりません。見るべきは2件目以降が「狙って」出るかどうかです。この段階の話は、この記事の範囲を超えるので、別の記事で扱います。
- ①の接点が○だったら、その接点から求職者に声をかける文面と場面を先に決める。許可が下りてから考え始めると、有効期間の最初の数か月を準備に使ってしまいます。
- ②の専任者が決まったら、その人が最初に覚えることを1枚にする。面談の進め方、求人の読み方、推薦文の書き方。経験者が社内にいない前提で、誰から教わるかも決めます。
- ③の要件を満たしていたら、事業開始の予定時期から逆算して申請する。労働局の案内では、申請は事業開始予定時期のおおむね2〜3か月前までに行う必要があるとされています。①②が固まってから逆算します。
※ 当社の担当コンサルタントは、個人として150社以上の人材紹介事業の立ち上げ・グロースを支援してきました(人材紹介事業 立ち上げ支援のページに経歴と支援事例を公開しています)。この記事の3つの順番はその支援で使っている型ですが、すべての会社で同様の結果になることを保証するものではありません。参入して勝てるかどうかの診断は、無料相談ではなく有料の支援に含まれる内容です。
この考え方の呼び名
ここまで、専門用語を使わずに書いてきました。最後に名前を渡しておきます。
人材紹介業の法律上の名前は有料職業紹介事業で、職業安定法に基づく厚生労働大臣の許可制です。①で棚卸しした「働く個人との接点」は、人材紹介の分野では求職者集客の入口、または求職者資産と呼ばれます。求職者を担当する人はCA(キャリアアドバイザー)、求人企業を担当する人はRA(リクルーティングアドバイザー)、1人が両方を担当する形は両面型と呼ばれます。応募→面談→推薦→選考→内定→承諾の各段階で何人が次に進んだかを数えることは歩留まりの管理です。
名前は最後で構いません。先に必要なのは、自社の中に求職者との接点があるかどうかを、事業ごとに書き出すことです。当社の立ち上げ支援の考え方と、無料相談で扱う範囲は人材紹介事業 立ち上げ支援のページに公開しています。
よくある質問
許可の申請だけを先に進めておいて、集客はあとで考えてはいけませんか。
申請自体は並行できます。ただ、許可の有効期間は取得から始まるため、集客の設計が無いまま取ると、動けない期間が先に消費されます。①②の答えが出ていれば、申請と集客の準備を同時に進められます。答えが出ていないなら、申請の前に①②を確かめるほうが早いです。
資本金500万円が必要だと聞きましたが、本当ですか。
要件は資本金ではありません。三重労働局が公開している許可要件の概要では、資産(繰延資産及び営業権を除く)から負債を引いた額が500万円×事業所数以上、かつ自己名義の現金・預金が150万円+60万円×(事業所数-1)以上とされています。直近の決算書で確かめられます。
特定の業界や職種に絞って始めたほうがいいですか。
未経験から領域を絞ることは、当社では勧めていません。どの領域にも先行する特化型の紹介会社があり、求職者の集客でも実務でも正面から競うことになります。手元にいる求職者に合わせて求人を用意するやり方のほうが、接点を持つ会社には現実的です。
社内に人材紹介の経験者がいません。それでも始められますか。
経験者がいない前提で始める会社が多数です。ただし、専任者を置けることが条件になります。経験は後から作れますが、時間を割く人がいない状態は後から埋まりません。採用側の実務からの参入については人材紹介会社を使っても採用できない会社に共通する3つの問題で、紹介会社が決定を出せない理由を求人企業側から書いています。
無料相談では、どこまで見てもらえますか。
現状のヒアリング、支援の進め方の説明、費用の概算レンジの提示までです。参入して勝てるかどうかの診断、参入領域の選定、収支の試算、求職者接点の棚卸しは、有料の支援に含まれる内容で、無料相談では行っていません。

