求人票と実際の仕事が違うと言われた|AIが求人原稿を直す時代に、会社側にしか残らない工程

コラム記事

入社して数週間の社員から「求人票に書いてあった仕事と違う」と言われた。嘘を書いたつもりはない。それでも言われる。先に結論を書きます。求人票と実際の仕事のずれは、「嘘を書いた」から起きるのではなく、求人票の文が「応募が来る言葉」に寄っていくうちに、誰も事実と照合していない箇所が増えるから起きます。2026年9月7日、Indeed Japanは「Indeed PLUS AIアシスタント(ベータ版)」の提供開始を発表しました。求職者の行動データや同じ職種・地域の他社求人をもとに、AIが求人原稿の改善提案を届ける機能です。応募を増やす方向の提案が、これから自動で届くようになります。当社はこの動きを歓迎する一方で、「その提案は自社の仕事の事実と合っているか」を確かめる工程は、AIではなく会社側にしか無いと考えています。この記事では、ずれが生まれる3つの箇所と、求人票を事実と照合する費用ゼロの手順、AIの提案を承認する前に見る順番を書きます。応募を増やす書き方そのものは別の記事で扱っており、ここでは「書いたことと実際が合っているか」だけに絞ります。

求人票が「事実」から離れていく仕組み

求人票は、一度書いたら終わりではありません。応募が少ないと書き直し、媒体の担当者から「この表現のほうが応募が来ます」と助言を受け、他社の求人を見て表現を寄せる。そのたびに文は「応募が来る方向」へ動きます。動くこと自体は正しいのですが、動いた先の文を、現場の事実と照合し直す工程が抜けます。

たとえば「未経験歓迎・先輩がしっかり教えます」は、応募を増やす定番の表現です。ただ、実際に教える先輩が忙しく、最初の1週間は放置される現場なら、この一文は入社後に「違う」と言われる箇所になります。書いた時点では本当だったのかもしれません。書いた人が現場を知らなかったのかもしれません。どちらにしても、照合されていない文は、時間が経つほど事実から離れます。

Indeed Japanの発表(2026年9月7日・PR TIMES)によれば、Indeed PLUS AIアシスタントは、1つの求人に対して最大週1回、応募状況などをもとに改善提案を届け、採用企業が承認した内容だけが求人原稿に反映されます。発表文には「AIアシスタントが採用企業の承認なく求人原稿を変更することはありません」とあります。つまり、提案は自動で届き、承認の判断は会社に残る設計です。この「承認」の場面で、事実との照合を誰がやるのかが、これからの求人票の質を決めます。

ずれが生まれる3つの箇所

当社が求人原稿の作成と見直しの中で、入社後に「違う」と言われやすい箇所として整理している区分です。

箇所 求人票の文 入社後に言われること ずれる理由 照合の相手
① 仕事の中身 「〇〇の企画・提案」「お客様対応」 「実際は事務作業と電話がほとんど」 仕事の一部(見栄えのする部分)だけを書き、時間の大半を占める作業を書いていない その仕事を今やっている人の1週間
② 条件と運用 「残業月10時間程度」「土日休み」 「繁忙期は毎日残業」「土曜出勤がある」 平均や制度上の数字を書き、実際の運用(繁忙期・例外)を書いていない 直近6か月の勤怠と、繁忙期の実態
③ 育成と環境 「先輩が丁寧に教えます」「アットホーム」 「聞ける人がいない」「放置された」 意図や理想を書き、実際に誰が・いつ・何を教えるかが決まっていない 教える担当者の名前と、最初の2週間の予定

3つのうち、①は書き方の問題、②は数字の問題、③はそもそも社内で決まっていない問題です。③が最も厄介で、求人票を直しても解決しません。書く前に、決めるべきことが決まっていないからです。「アットホーム」と書いたときに、社内の誰も「では誰が教えるのか」を決めていない状態が、入社後のずれとして表に出ます。

費用ゼロで、求人票を事実と照合する

必要なのは、今出している求人票、その仕事を今やっている社員、勤怠の記録、紙1枚です。1時間で一巡します。

手順1:求人票の文を、「事実」「数字」「意図」の3色に分ける

求人票を印刷し、文ごとに印をつけます。「〇〇の作業を行う」のように確かめられる文は事実、「残業月10時間」「土日休み」のように確かめられる数字や条件は数字、「丁寧に」「やりがい」「アットホーム」のように確かめようがない文は意図です。意図の文が全体の半分を超えていれば、その求人票は照合できる箇所が少なく、入社後にずれる余地が大きい状態です。

手順2:事実の文を、その仕事をしている社員に読んでもらう

手順1で事実に分けた文を、実際にその仕事をしている社員1人に見せ、「この1週間で、この文に書いてあることに何時間使ったか」を聞きます。求人票に書いてある仕事が週の2割で、書いていない作業が8割なら、①のずれです。応募者は求人票の2割を「主な仕事」と読んで入社します。

手順3:数字の文を、直近6か月の記録と突き合わせる

残業時間・休日・シフトなど数字で書いた文を、直近6か月の勤怠と比べます。平均は合っていても、最も忙しい月の数字が求人票の2倍なら、②のずれです。入社した人が最初に経験するのが繁忙期だった場合、平均は何の慰めにもなりません。繁忙期がある仕事なら、その旨と時期を書くほうが、入社後の「違う」は減ります。

手順4:意図の文に、「誰が・いつ・何を」を書けるか試す

「先輩が教えます」なら、教える担当者の名前、最初の2週間に何を教えるか、その担当者の通常業務との兼ね合いを、紙に書けるか試します。書けなければ、まだ決まっていません。それは求人票の表現の問題ではなく、受け入れ体制の問題で、③のずれとして入社後に出ます。書けたなら、その中身の一部(「入社後2週間は〇〇を担当者について覚えます」など)を求人票に移すと、意図の文が事実の文に変わります。

AIの提案を承認する前に見る順番は、③ → ② → ①

これから求人媒体のAIが「この表現に変えると応募が増える」と提案してくる場面が増えます。当社が求人原稿を書く立場で見ている限り、提案の多くは①仕事の中身の見せ方と③育成・環境の言葉に集まります。承認するときは、次の順で見ます。

  1. ③意図の文を足す提案は、社内で決まっているかを先に確かめる。「研修充実」「サポート体制あり」と書き足す提案が来たとき、その体制が実在するかを手順4で確かめてから承認します。決まっていないなら、承認せず、先に決めます。
  2. ②数字を変える提案は、記録と突き合わせてから承認する。他社の相場に合わせて「残業少なめ」と書く提案は、自社の直近6か月の勤怠で裏づけできる場合だけ通します。相場に合わせた数字は、自社の事実ではありません。
  3. ①仕事の見せ方を変える提案は、週の時間配分と矛盾しないかを見る。「企画にも関われる」を前に出す提案は、実際に企画に使う時間が週に1時間なら、入社後のずれになります。前に出すなら、その仕事が全体の何割かも書きます。

提案を承認するのは1タップでも、照合には現場の人の時間が要ります。照合しないまま承認を重ねると、応募は増え、入社後の「違う」も増えます。応募数だけを見ていると、この2つが同時に起きていることに気づけません。応募の質そのものが合っていない場合は面接しても採りたい人がいない、経験者に届かない場合は経験者を募集しても未経験者しか来ないで扱っています。入社後の早期離職として表面化しているなら、採用してもすぐ辞めるの切り分けが先です。

※ 当社の採用ライティングは累計20,000件超(求人原稿1本=1件)で、ここに書いた3つの箇所はその中で見てきた整理の型です。求人票を事実と照合した結果として早期離職が何%減る、といった効果を当社が計測しているわけではなく、改善幅を保証するものではありません。Indeed PLUS AIアシスタントの仕様は、Indeed Japan株式会社のプレスリリース(2026年9月7日・PR TIMES)に基づく二次情報で、当社が実際に利用して確かめたものではありません。当社の無料診断でも、求人票をまずこの3色に分けるところから行っています。

この考え方の呼び名

ここまで、専門用語を使わずに書いてきました。最後に名前を渡しておきます。

求人票に、良い面だけでなく実際の仕事の厳しさや条件をそのまま書くことは、採用の分野でRJP(Realistic Job Preview:現実的な仕事情報の事前開示)と呼ばれています。入社後に「聞いていた話と違う」と感じる状態はリアリティショック、応募の段階で会社と応募者の期待をすり合わせることは期待値調整と呼ばれます。求人原稿を応募データにもとづいて継続的に見直す運用は、求人票の改善や採用マーケティングの一部として扱われ、今回のIndeedの機能はその作業の一部をAIが担うものです。

名前は最後で構いません。先に必要なのは、今出している求人票を印刷して、文を3色に分けることです。当社の採用支援の考え方は採用コンサルティングのページに公開しています。

よくある質問

厳しい実態をそのまま書くと、応募が減りませんか。

減る場合はあります。ただ、減るのは「その条件では働けない人」の応募で、入社後に辞める人の応募が先に減ります。応募数だけで判断せず、応募から入社・定着までを1本で見てください。繁忙期があるなら時期を、残業があるなら最も多い月の実績を書くほうが、入社後の「違う」は減ります。

Indeedなど媒体のAIの提案は、使わないほうがいいですか。

使って構いません。市場の相場や求職者の行動を自社で調べる時間は、ほとんどの会社にありません。ただし、提案は「応募が増える方向」に寄るものと理解し、承認の前に本記事の③→②→①の順で事実と照合してください。承認の判断が会社に残る設計になっているのは、その照合を会社がやる前提だからです。

求人票を書いたのが前任者や制作会社で、現場を知らずに書かれています。

その場合こそ、手順2と手順3が効きます。今その仕事をしている社員に事実の文を読んでもらい、勤怠と数字を突き合わせるだけで、書いた人が誰でも照合はできます。書き直しは、ずれが見つかった文だけで構いません。

「アットホーム」のような言葉は、書かないほうがいいですか。

書くなら、それを裏づける事実を隣に置いてください。「アットホーム」だけでは確かめようがなく、入社後に各自が勝手に解釈します。「昼食は代表も含めて同じ部屋でとる」「入社初日に全員と10分ずつ話す時間がある」のように、確かめられる事実に置き換えられるなら、その事実だけを書くほうが伝わります。

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