「経験者募集」と書いているのに、届く応募は未経験の人ばかり。面接に呼んでも話がかみ合わず、「この地域には経験者がいない」という結論になりがちです。先に結論を書きます。経験者募集に未経験者が集まるのは、応募者の側ではなく、求人票が経験者に「自分向けだ」と読まれていないことが原因であることがほとんどです。ずれは3つに分かれます。①「経験者」の中身が書かれていない、②文章の訴求が未経験者向けになっている、③経験者が応募前に知りたい情報が無い。この記事では、3つのずれの見分け方と、自社の求人票を費用ゼロで確かめる手順、直す順番を書きます。求人媒体の選び方や、募集要件そのものをどこまで下げるかは別の話なので扱いません。
「経験者がいない」のではなく、「経験者に読まれていない」
経験者募集がうまくいかないとき、社内では「今どき経験者は応募してこない」「未経験を育てるしかない」という話になります。それが当たっている地域や職種もあります。ただ、その結論を出す前に確かめるべきことがあります。自社の求人票を経験者が読んだとき、「これは自分向けの求人だ」と判断できる材料が入っているかです。
当社は代表者の実務を通じて累計20,000件超の採用原稿を扱ってきましたが(実績ページに集計条件を公開しています)、経験者募集の原稿でよく見るのは、見出しに「経験者募集」と書いてあるだけで、本文は未経験者向けの求人と同じ文章になっているものです。「未経験でも安心」「丁寧に教えます」「アットホームな職場」。これらは未経験者には安心材料ですが、経験者にとっては「自分が求められている求人ではない」と読む材料になります。
経験者は、応募前に求人票を読み比べます。自分の経験が活きる場所かどうかを、書いてある情報から判断します。判断できる情報が無ければ、応募しません。応募するのは、判断材料を必要としない層、つまり未経験者になります。求人票が誰を集めているかは、書き手の意図ではなく、読み手が受け取る情報で決まります。
経験者に届かない3つのずれ
当社が経験者募集の原稿を点検するときに使っている区分です。
| ずれ | 求人票で起きていること | 経験者がどう読むか | 触っても動かないもの |
|---|---|---|---|
| ① 「経験者」の中身が無い | 「経験者優遇」「実務経験者歓迎」とだけ書かれ、何の経験を、どの程度、どんな場面で使うのかが無い | 「自分の経験が当てはまるか分からない」。当てはまるか分からない求人には応募しない | 給与の上乗せ・媒体の変更 |
| ② 訴求が未経験者向け | 「未経験歓迎」「イチから教えます」「先輩がサポート」が本文の中心。経験者募集と未経験者募集を1本の原稿で兼ねている | 「教わる側として扱われる」。任される範囲が小さいと感じ、候補から外す | 見出しに「経験者募集」を足す |
| ③ 経験者が知りたい情報が無い | 任される範囲・裁量・入社後の役割・給与の幅・現場の人数と構成が書かれていない。仕事内容が一般的な業務名の羅列で終わる | 「入ってみないと分からない」。在職中の経験者は、分からないものに時間を使わない | 写真・社員インタビューの追加 |
3つは重なって起きることが多いですが、直す順番は違います。①が無いまま③を書き足しても、誰向けの情報か決まらないままです。逆に①が決まれば、②③はその定義に合わせて書き直せます。
費用ゼロで、自社の求人票を確かめる
必要なのは、いま出している求人票と、直近の応募者の一覧、紙1枚です。1時間かかりません。
手順1:直近の応募者を「経験あり/なし」で数える
直近3か月の応募者を並べ、募集した職種の実務経験がある人とない人に分けます。経験者が0か、いても1〜2人なら、この記事の対象です。経験者は来ているが採用に至らない、という場合は別の問題(選考のずれ)なので、面接しても採りたい人がいないのほうが当てはまります。
手順2:「経験者」を、求人票の言葉だけで定義できるか試す
求人票の中から、「経験」に関する記述をすべて書き出します。そのうえで、その記述だけを読んで、「何年」「何を」「どのレベルで」やってきた人を指しているのかを、第三者に説明できるか試します。
説明できなければ①です。たとえば「施工管理の経験者」では、現場の規模も、扱ってきた工種も、元請か下請かも分かりません。経験者本人は、自分の経験がこの会社で通用するかを、この記述から判断することになります。判断できない求人票には、判断を必要としない人だけが応募します。
手順3:本文の文章を、「経験者向け」と「未経験者向け」に色分けする
求人票の本文を1文ずつ読み、経験者に向けた文と未経験者に向けた文に色を分けます。「未経験歓迎」「丁寧に教えます」「先輩がサポートします」は未経験者向け、「◯◯の判断を任せます」「現場の段取りを一任します」「入社後は◯◯の責任者として」は経験者向けです。
未経験者向けの文が本文の半分を超えていれば②です。1本の求人票で両方を集めようとすると、文章は自然に未経験者向けに寄ります。安心させる文のほうが書きやすいからです。経験者を採りたいなら、原稿を分けるか、経験者向けの文だけで組み直す必要があります。
手順4:経験者が応募前に知りたい5つが書いてあるか見る
③の確認です。次の5つが、求人票のどこかに書いてあるかを見ます。
- 入社後、最初に任される範囲(何を、どこまで自分で決められるか)
- 半年〜1年後に想定している役割
- 給与の幅と、経験によってどこが変わるか
- 一緒に働く現場の人数と構成(経験者が何人いるか)
- いま現場で困っていること(なぜ経験者を必要としているのか)
3つ以上書けていなければ③です。特に5つ目は、経験者にとって最も判断しやすい情報です。「なぜ経験者が要るのか」が書いてあれば、自分の経験がそこに当てはまるかを本人が判断できます。書きにくい内容ですが、書けない会社は、経験者に何を任せたいのかが社内でも決まっていないことが多いです。
直す順番は、① → ③ → ②
3つを同時に書き直そうとすると、原稿を白紙から作り直す話になり、時間がかかったうえに元の原稿と大差ない仕上がりになります。次の順番で1つずつ動かします。
- ①「経験者」の定義を、社内で1行に決める。「何年」「何を」「どのレベルで」の3点です。ここは求人票を書く前に、現場の責任者と決めます。決まらなければ、それが本当の問題です。募集要件の決め方そのものは面接しても採りたい人がいないで扱っています。
- ③手順4の5つを、①の定義に合わせて書く。定義が決まっていれば、任せる範囲も、必要としている理由も、その定義から書けます。写真や社員の声を足すのは、この5つが揃った後です。
- ②未経験者向けの文を、経験者向けの原稿から外す。未経験者も採りたい場合は、原稿を2本に分けます。1本で両方を狙う原稿は、結果として未経験者だけを集めます。
※ ここに書いた3つのずれは、当社が採用原稿の点検で使っている整理の型です。当社は累計20,000件超の採用原稿を扱ってきましたが、経験者の応募が何倍になるといった改善幅を保証するものではありません。まず自社の求人票で、どのずれが起きているかを確かめてください。当社の無料診断でも、まずこの3つのずれの確認から行っています。
この考え方の呼び名
ここまで、専門用語を使わずに書いてきました。最後に名前を渡しておきます。
①で扱った「どんな経験を持つ人を採るか」を先に決めることは、採用の分野ではペルソナ設計や採用要件の定義と呼ばれます。②③で扱った「その人が応募前に知りたい情報を、その人に向けた言葉で書く」ことは、採用ライティングやジョブディスクリプション(職務記述書)の設計にあたります。特に③の「任される範囲・裁量・役割」を明示する考え方は、ジョブ型の求人の書き方として広まっています。求人票の書き方全般については、求人票の書き方で応募は変わるのかにもまとめています。
名前は最後で構いません。先に必要なのは、自社の求人票を経験者の目で読み直すことです。当社の採用支援の考え方は採用支援のページに公開しています。
よくある質問
給与を上げないと、経験者は来ませんか。
給与が決め手になる場面はありますが、その前に、給与の幅が求人票に書いてあるかを確かめてください。幅が書かれていなければ、経験者は自分がどこに位置づけられるかを判断できず、金額以前に候補から外します。上げる判断は、手順4の5つが揃ってから、応募の変化を見て行うほうが確実です。
経験者と未経験者を、同じ求人票で募集してはいけませんか。
禁止ではありませんが、1本で両方を狙うと文章は未経験者向けに寄り、結果として未経験者だけが集まりやすくなります。両方を採りたいなら、原稿を2本に分けて、それぞれに向けた言葉で書くほうが、どちらにも届きます。
「経験者」の定義を細かく書くと、応募が減りませんか。
未経験者の応募は減ります。それは意図した結果です。経験者募集で必要なのは応募の総数ではなく、定義に当てはまる人の応募です。定義を書くことで、当てはまる人は「自分向けだ」と判断でき、当てはまらない人は応募前に離れます。面接の時間も減ります。
求人媒体を変えれば、経験者に届きますか。
媒体によって読者層は違いますが、求人票の中身が変わらなければ、どの媒体でも同じ層が応募します。媒体の変更は、手順2〜4で求人票を直した後の話です。採用の担当者がいない体制で、どこから手をつけるか迷っている場合は採用担当がいない会社は、何から始めるかも参考にしてください。

