給料を上げられないが採用したい|提示条件で負ける会社が、先に整える「金額以外の3つの情報」

コラム記事

「うちは給料で負けている。でも上げられない」。採用の相談で、いちばん多く聞く言葉の一つです。先に結論を書きます。「給料で負けている」という一言の中には、①相場より本当に低い、②相場と同じくらいなのに金額しか比べられていない、③相場より高いのに伝わっていない、の3つの状態が混ざっています。②と③は、金額を上げなくても直せます。①は、金額以外の情報では埋まりません。どれなのかを先に切り分けずに「やりがい」や「アットホーム」を書き足しても、応募者の比較の仕方は変わりません。この記事では、応募者が金額の次に見ている3つの情報、自社の求人がどこで負けているかを費用ゼロで確かめる手順、直す順番を扱います。採用にかける費用を下げる話や、募集要件そのものをどこまで下げるかは別の話なので、ここでは「提示している条件の競争力」に絞ります。

応募者は、比べられるものだけを比べている

求人を探している人は、同じ地域・同じ職種の求人を何件も並べて見ています。そのとき、どの求人にも必ず書いてあって、数字で並べられるのは金額です。だから金額で比べます。金額で比べられているのは、金額がいちばん大事だからではなく、金額しか比べる材料が無いからです。

当社は代表者の実務として求人原稿を累計20,000件超(求人原稿1本=1件として集計)書いてきましたが、その範囲で見る限り、「給料で負けている」と言う会社の求人の多くは、金額の欄は他社と同じ書き方で埋まっていて、それ以外の欄が「〇〇な方歓迎」「アットホームな職場」のような、どの会社にも当てはまる言葉で埋まっています。比べる材料が金額しか無いので、金額で負けます。

逆に言えば、金額以外に比べられる情報を置けば、比較の軸が一つ増えます。それで金額の差が消えるわけではありません。ただ、「金額はやや低いが、この条件なら」と判断する人が出てくる余地が生まれます。その余地が生まれるのは②と③の状態だけで、①の状態では生まれません。まず、自社がどれなのかを見ます。

「給料で負けている」の3つの状態

状態 何が起きているか よく出る症状 金額以外の情報で直るか
① 相場より低い 同じ地域・職種の求人と並べると、下限も上限も明らかに下 応募がほぼ無い。来ても条件の話で終わる 直らない。金額か、募集する仕事の範囲そのものを変える判断が要る
② 相場と同じくらい 金額に差はないが、金額以外の欄に比べられる情報が無い 応募はあるが、同時に受けている他社に流れる。辞退理由が「条件」 直る。比較の軸を増やせば、金額以外で選ばれる余地が出る
③ 相場より高いが伝わっていない 賞与・手当・昇給を含めると高いのに、求人には基本給しか出ていない 面接で条件を説明すると驚かれる。「そんなに出るとは思わなかった」 直る。金額の「内訳と上がり方」を書けば、そのまま比べられる

③は意外に多い状態です。基本給は控えめで、手当や賞与で実際の年収を作っている会社は、求人票に基本給だけを書くと、金額の比較で負けます。「上げられない」のではなく、上げてある分が見えていないだけです。

応募者が金額の次に見ている3つの情報

当社が求人原稿を書くときに、金額の欄の次に必ず埋めるようにしている3つです。どれも、求人票に「事実として」書ける情報で、金額を動かさずに置けます。

  1. 金額の内訳と、上がり方。基本給・手当・賞与の内訳、そして「何をすると、いつ、どのくらい上がるのか」。昇給の条件と、実際に上がった人の例(入社〇年目で〇〇の担当になり、月給がいくらからいくらへ)が事実として書けるなら、それは「今の金額」より強い比較材料になります。約束できないことは書かず、実際に起きたことだけを書きます。
  2. 時間の使い方。残業の実際の時間、休みの取り方、繁忙期と閑散期の差、帰宅時刻の目安。応募者が知りたいのは「残業少なめ」という言葉ではなく、先月の平均や、いちばん忙しい月の実態です。ここが具体的な求人は少ないため、書くだけで比べられる材料になります。
  3. 仕事の中身と、任される範囲。入社してすぐ何をするか、半年後に何を任されるか、誰と一緒に働くか。仕事の中身が具体的に書かれていると、応募者は「自分にできそうか」「ここで何が身につくか」を金額と並べて判断できます。

3つに共通するのは、形容詞ではなく、社内で実際に起きている事実を、数字か具体例で書いていることです。「働きやすい」「成長できる」は比べられません。「先月の残業は平均〇時間」「2年目で〇〇の担当」は比べられます。

費用ゼロで、自社がどこで負けているか確かめる

必要なのは、求人サイト、自社の求人票、紙1枚です。30分で一巡します。

手順1:同じ地域・同じ職種の求人を5件並べ、金額の欄だけを見る

自社と同じ職種で、通勤圏が重なる求人を5件選びます。金額の下限と上限を書き出し、自社を並べます。自社が5件のどこにいるかで、①②③のどれかが決まります。明らかに下なら①です。真ん中あたりなら②です。手当や賞与を足すと上に来るのに求人票には基本給しか書いていないなら③です。この段階で①だった場合、この先の手順は金額を動かさない限り効きません。先に、金額を上げるか、募集する仕事の範囲を変えるかの判断が要ります。

手順2:自社の求人票から、金額の欄を隠して読む

自社の求人票を印刷し、給与の欄を紙で隠して読みます。残った文章の中に、前の節の3つ(内訳と上がり方・時間の使い方・仕事の中身と範囲)について、数字か具体例で書かれている箇所を数えます。0か1なら、応募者はこの求人を金額でしか比べられません。②の状態です。

手順3:既存社員に「入社の決め手」を聞く

直近1〜2年に入社した社員に、「他社と比べて、ここに決めた理由は何か」を聞きます。出てくる答えは、金額ではないことがほとんどです。「面接で仕事の中身を具体的に教えてもらえた」「休みの取り方が実際に聞けた」のような答えが出たら、それが自社の比較材料であり、求人票に載っていない情報です。載っていないから、応募前には比べられていません。

手順4:手順2で数えた箇所と、手順3の答えを突き合わせる

手順3で出た「決め手」が、手順2の求人票にどれだけ書かれているかを見ます。ほとんど書かれていないなら、面接まで来た人には伝わるが、応募前の比較では負けている状態です。ここまでで「①②③のどれか」と「3つの情報のうち何が欠けているか」が1枚に出ます。これが現在地です。当社の無料診断でも、まずこの並べ方から行っています。

直す順番は、③の内訳 → ①の時間 → ②の仕事

3つを同時に書き足そうとすると、求人票が長くなるだけで比べられません。次の順で1つずつ動かします。

  1. 金額の内訳と上がり方を、事実の範囲で書く。基本給と手当と賞与の内訳、昇給の条件、実際に上がった例。③の会社はこれだけで比較の位置が変わります。②の会社でも、「今はこの金額、この条件でここまで上がる」は、今の金額だけより強い材料です。約束できない昇給を書いてはいけません。書いてよいのは、実際に起きたことと、決まっている条件だけです。
  2. 時間の使い方を、数字で書く。先月の残業時間の平均、繁忙期の実態、休みの取り方。ここは多くの求人が曖昧なので、正直に書くだけで差になります。数字が悪い場合は、悪いまま書き、代わりに「なぜそうなっているか」と「どう変えようとしているか」を添えます。隠して入社された方が、早期離職で高くつきます。
  3. 仕事の中身と任される範囲を、時系列で書く。入社直後・半年後・2年目のように、何を任されるかを順に書きます。これは「成長できる」を事実に置き換える作業です。

書き足したあとの求人票は、金額の欄を隠しても比べられる情報が残っているはずです。それでも応募が動かない場合は、金額以外に原因があることが多く、応募は来るのに採りたい人が来ないなら面接しても採りたい人がいないで扱った要件の言葉の問題、経験者を募集しているのに未経験者ばかり来るなら経験者を募集しても未経験者しか来ないで扱った訴求のずれを、先に確かめてください。

※ 当社は、金額以外の情報を書き足したことで応募数や採用決定がどれだけ変わったかを、実績の数字として公開していません。この記事で書いているのは、求人原稿を書く実務の中で見てきた「比べられる材料の有無」の構造であり、書き足せば採用できるという保証ではありません。①の状態(相場より低い)は、情報では埋まりません。

この考え方の呼び名

ここまで、専門用語を使わずに書いてきました。最後に名前を渡しておきます。

金額以外に会社が応募者へ提供できる価値——時間の使い方、仕事の中身、任される範囲、身につくもの——をまとめて設計することは、EVP(Employee Value Proposition:従業員への価値提案)と呼ばれています。金額以外の報酬という意味で非金銭報酬という言い方もあります。求人票に書く労働条件(賃金・時間・業務内容など)を正確に示すことは、求人の際の労働条件の明示として職業安定法で定められている範囲でもあり、この記事で書いた「事実の範囲で書く」は、その線の内側で比較材料を増やす作業です。

名前は最後で構いません。先に必要なのは、自社の求人票の金額の欄を隠して読み、残った文章で応募者が何を比べられるかを見ることです。当社の採用支援の考え方は採用支援のページに、求人原稿の実務の記録は実績ページに公開しています。

よくある質問

①の状態(相場より低い)だと分かりました。金額を上げる以外に方法はありませんか。

金額を動かさない方法は、募集する仕事の範囲を変えることです。同じ金額で「何でもやる人」を探すと相場に負けますが、仕事を切り分けて「この範囲だけ」の募集にすると、比べられる相手が変わり、相場の位置も変わります。ただし、それは求人票の書き方ではなく、社内の仕事の分け方を変える判断です。書き方だけで①を埋めることはできません。

残業や繁忙期の実態を正直に書くと、応募が減りませんか。

応募の数は減ることがあります。減るのは、その条件では続かない人の応募です。隠して入社し、入社後に実態を知って辞める場合の損失(採用費と教育の時間、次の募集)のほうが大きい、というのが当社の考えです。数字が悪いなら悪いまま書き、なぜそうなっているかと、どう変えようとしているかを添えます。

昇給の例を書きたいのですが、個人が特定されませんか。

氏名や部署を書く必要はありません。「入社2年目で〇〇の担当になり、月給が〇万円から〇万円に」のように、年次と役割と金額の変化だけを書きます。実際に起きた例であることが条件で、これから起きるかもしれない例を書いてはいけません。

求人票を直す前に、採用ページを作ったほうがいいですか。

順番は求人票が先です。応募者が最初に比べているのは求人票で、採用ページはその次に見るものです。求人票に比べられる材料が無いまま採用ページを作っても、比較の段階で残っていません。求人票に3つの情報が入ってから、その詳しい版として採用ページを考える順番をすすめます。

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